怪談師 竈猫氏と会う
facebook、mixi、ツイッターといったSNSは一応、開設しているものの、今ひとつ馴染めず、本気では使っていない。繋がるということを目的とすることがどうしても不自然で仕方がないのだ。だから、facebookは古くからの知り合いの自動更新のある住所録、mixiはオカラジ(オカルトラジオ)の放送アーカイブ取得のための情報源、ツイッターは本当にごくたまに気が向いたときにタイムランをみるといった存在である。
たまたまそのツイッターを眺めていた時に、オカルトラジオで活躍していた怪談師の竈猫氏が当地に扁桃腺治療のために訪れる予定だといいうつぶやきを発見する。怪談師なかで切り口が新鮮でもっとも敬愛しているのがこの竈猫氏であり、このチャンスを逃すという術はなかった。
ラジオのDJとリスナーというのは複雑な関係で、リスナーはDJのことをよく知っているが、DJは当然のようにリスナーのことを知らない。その存在さえも認識していないのだ。これとよく似た関係で、パソコン通信時代のアクティブとROMがある。あたしが頻繁にパソコン通信で発言をし、どこに住んでいるか明らかにしていたのだが、それを見ていたROMからメールで、「今度、そちらのライブハウスに行くのでご一緒しませんか」というお誘いがあったので、承諾し、彼とあったのだが散々だった。見ず知らずの人でしかなく、共通の話題が見つけられなかったので、すぐに会話がなくなってしまった。ライブ自体にもそんなに興味がなく、安くない飲物代等も必要で、かなり不愉快な気分になってしまった。その後に彼の住んでいるところで開催される忘年会に誘われたが、さすがに体良く断った。もちろんアクティブ同士のオフ会はネット上の付き合いのとおり、弾んだものになる。
今回の竈猫氏のこともそんなことから、少なからず迷惑をかけるのではないかと云う心配があったのだが、思い切って当地の心霊スポットのドライブに誘ってみると、心よよく承諾して貰え、昨夜、実際に会うことが出来た。
夜10時に彼の投宿しているというホテルに迎えにいったのだが、思わぬことが起った。雨が降っているということもありなるべくホテルの正面口に近いところに車を停めて彼が出てくるのを待っていたのだが、フロントの担当者が出てきて、どうしてここに車を停めているんだ、と尋ねる。宿泊しているひとと外出するので迎えにきて待っていると告げると、一端、フロントに戻って行ったのだが、また数分経ってもそのまま停車させているので、ふたたびやってきて、今度は、何という名前の客だ、と訊いてくる。これはネットをやって知りあった仲ではなかなか辛いものがあって、お互いハンドルと云うニックネームでやりとりしていて、本名は実際に会ってから教えることになる。ここで、竈猫さんというひとを待っている、などと云える訳がない。仕方なく、そのひとの名前は判らないんですが、と云うと怪訝そうな顔をされてしまった。当たり前の話である。
そんなこともあったのだが、無事、竈猫氏をひらって、生憎の雨のなかをドライブに出掛ける。
特にギクシャクすることなく会話は弾む。というよりも、竈猫氏の喋りのパワーが強い。オカラジでは比較的おとなしい方に入るような気がするのだが、基本的に喋るのが好きな人なのだろうと思う。話題が豊富であることももちろん武器になっている。ネットで話され、アーカイブになっている彼の話はおそらくすべて聴いているので、それ以外の話をしていただいて面白かった。彼の本業はIT関連なのだが、それまでの経歴についても幾らか話していただき、感心せざるを得なかった。いかにあたしが温床育ちであることか。
だらだらと雨の中を心霊スポットと云われるところを順々にころがして、深夜3時前まで走行距離150kmのドライブだった。
でもね、ここで親しくなれても、あたしは怪談持ちではなく、話し手と聞き手という立場のままで、ほとんど継続した接点が持てないんだよねぇ。淋しい関係である。
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