堀江邦夫「原発ジプシー 増補改訂版―被曝下請け労働者の記録」(11)
この書籍のオリジナル版が出版されたのは、1979年、今から32年も前のことである。30歳の著者がフリーライターという身分を隠し、原発で労働者として9ヶ月働いたことを日記として残した潜入ルポである。
著者は美浜、福島第一、敦賀の3つの原発を点々としながら働いた。
今回の福島第一原発での作業員に対する待遇の悪さが問題になったものだが、あれは完全に普通の待遇であって、決して悪いわけではないのである。この30年間の原発での労働現場の状況は全く変っていないということだけなのである。
原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録 堀江 邦夫 (著) |
原発の点検のための作業は、電力会社の社員によらず、すべて下請けによって行われる。電力会社は現場の外から指示をするだけである。下請けはさらに下請けを使って、現場で作業する人間を集める。一定数の人間が必要なものだから、さらに下請けを使って人が集められる。何次もの孫請けによって、日雇い労働者の賃金には大きな差がでる。しかし、仕事が欲しいから文句は云っていられない。
原発での仕事は被曝が前提。どこまで被曝するか。また、仕事を多くしたいから、被曝を誤魔化すか。危険な箇所でもマスクをしていると作業のための会話ができないから、外さずにはいられない。怪我をしても怪我をしなかったことに。
こういった人たちが一ヶ所の原発だけで1000人単位で働いている。
原発という産業は、人を殺すということが前提にあるということは明らかである。もちろんそれは社員ではなく、どや街の労働者や地元に職を求める地元民である。弱いものは所詮、使い捨てである。
海江田が少し前に原発での修復作業を行っている労働者の待遇の悪さについて、「避難を余儀なくされている被災者よりも良い待遇というわけにもいかず、当事者もそれは認識している。見直しの線引きが難しい」と語った。この言い訳を考えたのはいったい誰なんだろう。
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