吉村 昭「破船」(82)
江戸時代の能登半島辺りの貧しい漁村が舞台の物語である。主人公は9歳の男の子だが、生活のため、3年間の身売りをする父親の代わりに母、弟、妹たちのために生計を立てる必要もあった。物語は身売りして村を出ていった父親が任期を終えて帰ってくるまでの3年間の出来事である。
農作物もまともに出来ないような土地で、漁で獲たものを食ったり、売って穀物を得ることでかろうじて生きている。それでも漁の悪い時もある。とにかく食って生きるために生きているというギリギリの状態だ。
唯一、彼らに潤いをもたらすのはお船様と云う難破船である。岩礁で座礁した破船は、彼らにとってまさしく宝船であった。
破船 吉村 昭 (著) |
実際にあったと云われていることが基にされている。
それにしてもいろいろ観察されることの多い物語だ。道徳の話であったり、政治のこと、等々、色んな切り口で議論が出来てしまうに違いない。限りなく寓話に近い形になっている。読む時々に色んな発見がありそうだ。
ただひとつ、これが実話であることに、とてつもない重みを感じる。ここまでの不快で悲しい体験はそうあるとは思えない。自業自得という部分もあるが、それがさらに絶望を呼び寄せる。
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