吉村昭 『高熱隧道』(67)
ページ数もあまりなく、内容も引込まれるもので一気に読んでしまう。4、5時間あれば読了できるような小説だが、壮絶な話、しかも実話がもとにされているので、ずっしり疲れる。
昭和12年、黒部第三発電所の建設のための軌道隧道と水路の切削工事が始まるのだが、ただでさえ秘境であり、現場調査の段階で転落死者が出るという有様だ。幾つかの工区に分けられて工事が行われたのだが、ある工区では岩盤温度がほり進むにつれて高温となった。65度と云う高温になり学者の意見では95度くらいで収まるだろうと云う見込みであったが、更に温度は上昇し、発破のダイナマイトが自然爆破すると云う事故が起こり、
人夫8人が爆死した。
日本が戦争に突入しようかという時期で、電力の確保は重要であり、工事は中断されることなく継続することが出来たのだが、温度は166度と云う常識を超えるものになったのだが、それでも工夫を凝らし、人手で工事は進められる。
高熱隧道 吉村 昭 (著) |
全工事では300人を超える犠牲者を出したが、高熱の中での工事と云う以外に宿舎が雪崩に2回も襲われた問題の工区では233人の犠牲者が出た。
技師の飽くなき実現に対する努力と現場で使い捨てのようにされる人夫。もの作りの厳しさがずしりと来る。こういったことは程度は変わってきているものの、現在も引き続いている。建築士をしている弟の話では大きな現場では亡くなる人への補償費が必ず組まれているという。
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