トマス・キニーリー『シンドラーズ・リスト―1200人のユダヤ人を救ったドイツ人』(82)
ページ数はそこそこあるものの内容的に面白く、読むのに苦にならないノンフィクション小説だった。ユダヤ人であるスピルバーグにより93年に映画化も行われた、ナチスからユダヤ人を救った工場経営主オスカー・シンドラーの話である。
シンドラーズ・リスト ―1200人のユダヤ人を救ったドイツ人 トマス・キニーリー (著), 幾野 宏 |
もともとこの人は理想に燃えるような類の人間ではなく、明らかに放蕩タイプの人間である。放蕩タイプであるから、女性関係が複雑なのは当然、金離れもいい。金、物品の使い方をよく心得ていて、これが私利私欲に傾けられるのなら、最悪な人間になってしまうのだろうが、そうではなくて、ユダヤ人救済に向いたからよかった。
工場主として儲けるつもりが、どうして反ナチス、ユダヤ人救済に向かってしまったのか、今ひとつはっきり判らないが、工場で成功した財を途中から完全に救済に向け、最後は文無しになってしまう。戦後は商売、結婚に失敗し、今度は助けたユダヤ人達に74年に死ぬまで助けて貰うことになる。
この放蕩ぶりは常人の理解を超えている。金品やそれを用いたコネですべてが解決できるというような考え方で、なおかつ、湯水のように実際に金品を使うのだから凄い。完全に「金は天下の回り物」というのを地で行っていてる。
同じような人間を日本人で見たことがある。読売新聞の名物記者だったが名誉毀損で不当逮捕された立松和博である。この人も記者としてスクープを得るために、かなりの金品やコネを使ったようである。シンドラーと同じく話術にも長けていたようで、人を懐に引込むのも得意だった。いつも女をたらし込んでいるのも似ている。
不当逮捕 本田 靖春 (著) |
こういった人たちは天才的に成功して上りつめるものの、一度失敗をするともともとが放蕩タイプなので地道に努力して立ち直るということができない。立松も会社に裏切られたということから、天職でもある記者からすっかり降りてしまい、自棄な生活を送った揚げ句、自殺に至った。
馬鹿とハサミは...というが、放蕩者もこれに付け加えた方が良さそうである。
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