小野不由美『屍鬼』(98)
10月の初めから読み始めていた小野不由美の『屍鬼』下巻をようやく読み終える。上下巻で1700ページほどあるものの、この程度で2ヶ月かかるとは、あたしの読書のスピードも落ちたものである。しばらく前なら、2週間もあれば読み終えていたろうに、とにかく読書時間が短くなったのが大きい。
屍鬼 下巻 小野 不由美 (著) |
ホラー小説としてはなかなかの出来である。残念ながら絶讃するまでには至らないが、非常に良質のエンターテイメントになっている。
上巻は全体を通すとまるまる序章といった感じなのだが、下巻に入ってから物語は展開を始め、その半ばからは急展開で一気にラストまで突っ切るといった感じだ。上巻の執拗なほどの緻密さと比較すると、下巻はあまりに表層的過ぎるといった印象もなきにしもあらずだが、明確な事件が起こっているので致し方ないのかもしれない。
物語はバンパイアものである。筋書き自体はスティーブン・キングの第二作目『呪われた町』を用いているとのことであるが、吸血鬼伝説自体西洋のものであり、何とはなく日本の風土には似合わない。日本の文化として死者が肉体を持ったまま生き返るという発想がないのである。そういう根本的な違和感が最後まで拭えなかった。
しかし、単純に物語としても面白いだけでなく、簡単に云い切ってしまうと「善とは?悪とは?」を問うと云ったような問答にも踏み込まれており、読ませるものにもなっている。基本的にエンターテイメントと云うスタイルをとっていても、加門七海のような哲学が微塵もない小説はつまらないものである、ということを逆説的にあらためて認識した。
読んで損はない小説なので、閑を持て余している人には絶対にお薦め。
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