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2008.05.26

大田洋子『流離の岸』(39)

 少し前にイライラする小説と云っていたのは大田洋子の『流離の岸』のことである。彼女が30なかばの時に書いた20代半ばまでの自伝的な恋愛小説である。

 幼い頃に両親が離婚し、祖母に育てられた後、没落富豪に嫁いだ母のもとに行くのだが、その家と肌が合ず、都会に出る。やがて妻子ある男にそれとは知らされず、執念く求婚され、結婚に至る。妻子の存在を知り、嫌悪を抱きつつも、男には惹かれる...といった話である。非常に利発で勝ち気な大田なのだが、それでも男に振り回される。正直言って、はた目には理解困難な状態になっている。もともとM的な素質を持っているにもかかわらず、頭の回転が良いのでMにはなり切れず、S的に暴れ回るといった感じだ。

 大田の被爆する前の話だが、これらのことから神経症になり、原爆のことを書くのに非常に苦労する。

大田洋子集 (第4巻)
大田洋子集 (第4巻)

単行本: 380ページ
出版社: 日本図書センター
ISBN-10: 4820579266
ISBN-13: 978-4820579267
発売日: 2001/11
商品の寸法: 22x15.8x2.8cm

 この大田洋子全集は大田の原爆文学をメインに置いてはいるものの、最終巻である第四巻はいずれも戦前のものである。しかし、大田文学の根底をなすものであり、これらを知っていると後の作品の理解に非常に役に立つ。このバックボーンを知ることで理解が深まるのである。最終巻にこれらの作品を配した編集者は実に考慮深い。

 大田自身の性格は残念ながら感心しかねるものがある。まぁ、側にはいて欲しくないような人物であるが、このような人物があの希な戦災にあったため、貴重な作品が残されたのだとも云える。残念なのはそれほどひとに知られていないということだ。いずれも私小説のようで苦しいが、一度は読んでおく必要はあると思う。


 大田洋子全集については<第一巻><第二巻><第三巻>を参照のこと。

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