取り残される人々
今、大田洋子の『夕凪の街と人と-一九五三年の実態-』(55)を読んでいる。被爆した大田はいったん広島を離れるが、その後の見るために今も広島で生活している妹を訪ねる。小説のような体をとっているがルポルタージュである。『半人間』で神経を患った大田が基町・原爆スラムで生きている人達の生きざまを見て歩くさまは、どうしようもなく、ピリピリし、痛々しい。
こうの史代の『夕凪の街 桜の国』は大田のこの小説のタイトルに由来し、大田の投影である主人公・篤子は夕刻にはきまって原爆スラムを包む夕凪の暑さを嫌っていた。
大田洋子集 (第3巻) 単行本: 418ページ |
広島市からするとスラムは好ましくないもので、スラムのある場所を緑地化しようとしている。しかし、生活の場のない者たちは、水道、便所のないところであるものの、そこにしがみ付いて生きていかなければならない。
原爆スラムはさらに20年近く存在し続けるのだが、こういった所に生きていかなければならない忘れられた人々は存在する。
13年前に起こった阪神・淡路大震災について、罹災地がどのように復興していくのか非常に興味をもって報道を見ていたのだが、半年程度で地方からはその様子を知ることができなくなってしまった。幾つのも町が壊滅してしまうと云う災害で復興も随分と大変だろう。どのように行政は街を蘇らせるのだろうか、と見守っていたのだが、結局、何も知ることが出来ない。時たま、いまだによくない生活を強いられている人たちのことを見聞きしたりする。
こうやって取り残されている人たちがいると思うとやはり胸が痛くなる。もっとも戦災、天災だけでなく、社会情勢によってもそれは生じる。見えないところにいる人たちのこともたまには想像してみたい。
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