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2008.01.19

大田洋子「大田洋子集 第三巻 夕凪の街と人と」(82)

 大田洋子はどうやら本格的な私小説作家であるらしい。この書籍に描かれるものはすべて身近で起こったことだと考えるのが自然である。第二巻に収録の『人間襤褸』に出てくるエピソードが、自分の弟の話として『世に迷う』に詳細に描かれる。私小説は読む者もその重みに辛くなるものだが、書く方はさらに辛いはずである。

大田洋子集 (第3巻)
大田洋子集 (第3巻)

単行本: 418ページ
出版社: 日本図書センター
ISBN-10: 4820579258
ISBN-13: 978-4820579250
発売日: 2001/11
商品の寸法: 22.6x15.6x3.2cm

 それにしても昭和の臭いそのものの小説である。あたしが子供の頃もかなり猥雑な人間関係が繰り広げられていた。今では人間の繋がりがほんの線のようになってしまい、あるのかないのか、あってもどうでも良いようなものになってしまっているが、以前はもっとあからさまな生々しいものだったような気がする。

 近所のおんぼろ借家に1、2才年上の子がいたのだが、捨て子をひらって来て育てられているというもっぱらの噂だった。確かに兄弟とは身なりが異なり、みすぼらしい傷んだ服を着せられていた。まぁ、当時は破れた肘や脛にあてを当てて着続けるというのが普通だったので、誰もが今と比べるとロクな格好をしていなかったものだが、それでもその姿は目についた。

 夕方まで一緒に遊んで、暗くなったので帰ろうとしても、その子は広場のすぐ横の家には一向に戻ろうとせず、家の前の未舗装の道端にしゃがみ込み、砂をいじって遊び続けていた。小学4年生くらいになっていたから、すでに見境のない年代ではない。家に入ることが出来ない事情があったのだろうと思う。

 とにかく扱われ方が酷いので、通りを超えて向うの家並みに住んでいたにもかかわらず、うちの母親が「どうにかできないものか」と云うようなことを話にいったことがあるくらいだった。

 そのうちし損なって余っていた花火の火薬を集めて遊んでいるうちに、爆発を起こしてしまい、件の子は失明してしまったという話を聞いた。通りを隔ててお互いの家があるので、いつも遊んでいると云う訳ではなかったが、それ以降、その子を見かけることはなくなってしまった。確かお姉ちゃんもいたと思うのだが、同様に見かけることはなかった。おそらくその事故から間もなく、引越しでもしたのだろうと思う。

 いつもはにかみ笑いを浮かべた、薄汚れた黒い顔が忘れられない。あたしにとってあの顔が昭和である。

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