大田洋子「大田洋子集 第一巻 屍の街」(82)
今月5日、広島の原爆記念日の前日に放送されたETV特集 「“屍(しかばね)の街”からの叫び ~被爆作家 大田洋子と戦後~」を見て、すぐさま注文した「大田洋子集 第一巻 屍の街」を読み終えた。
![]() | 大田洋子集 第1巻 屍の街 大田 洋子(著) |
この書籍では原爆当日からその7年後までを描く『屍の街』『冬』『山上』『残醜点々』『半人間』の5編が掲載されている。いずれも小説の形式をとっているが、ほとんど自らの体験をそのままに著したものだと判る。少なくともここで描かれている主人公の感情というのは著者のものそのものに違いないという直感を受ける。
原爆により身も心も打ちのめされ、完全に無気力となった生きた屍、逃げ延びた農村での非情な差別、原爆症に対する恐怖、GHQによる報道規制等々が著者を苛む。やがて精神に異常を来し、睡眠療法を受けるに至るのだが、被爆から7年間経ってもその陰は執拗につきまとって人生を狂わせ続けている。
自分が被爆したことを一切語らないという被爆者は少なくないようだが、これらの作品をひととおり読んだだけで、我々が想像する以上に被爆者は原爆によって傷付けられていると知る。第三者である我々は彼らの想いを知ることができない。だから、作家である大田は赤裸々に自らを描くしかなかったのだと思う。
GHQのプレスコードにかかる影響はここにもあり、昭和23年に出版された『屍の街』は原爆症について科学的な記述を行っている「無欲顔貌」の章10数ページについて削除された状態で初版を出され、2年後に件の章を復活させて増補版として出版されている。
この一連の作品を読んで何かを語ろうと思っても何も出てこない。あまりにも深すぎるのだ。この語り得ない深みを知ると核を持つだの持たないだのという議論は馬鹿げているように思えてくる。
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