柳田邦男『空白の天気図』(75)
あたしの愛読書である柳田邦男の文庫本版『空白の天気図』がどこかに埋もれてしまって、見当たらない。おそらくそこいらを掻き分ければ出てくるんだろうが、オリジナルの単行本版も欲しくなり、ヤフオクで落札。1,050円(+送料290円)だった。
空白の天気図 柳田 邦男 (著) |
このドキュメンタリ著書は非常に刺激的である。広島地方気象台を舞台に、原爆の投下されたあの日から、その翌月、広島県を中心に甚大な被害をもたらした枕崎台風までの気象台員たちの様子が詳細に再現される。また、枕崎台風では原爆の調査で広島入りしていた京大の物理学教室の研究者たちも土石流に遭い、幾人もが命を失くしている。
未曾有の歴史の出来事の裏での台員、科学者たちの活動は恐ろしく地道である。しかし、スペシャリストとして職を全うしようとする姿は非常に誇らしい。
原爆罹災、台風遭難といった陰惨な背景を持ちながらも、このノンフィクションが何かしらすがすがしさを持つのは上記のような理由によるだろう。原爆の悲惨さは様々な手記等から知ることができるが、その戦災を受けた状態でどのような活動、生活をしていたのかはあまり知らない。そういう中でこの測候業務をそれまでと同じように続けようとする台員の日常が描かれ、それを知るというのは非常に貴重なものではないかと思う。
ノンフィクションの中でも非常に優れたもので、数年に一度は必ず読み返す一冊。古本での入手も可能だが、文庫本版も残念ながら絶版になっているようだ。
空白の天気図 柳田 邦男 (著) |
ちなみに今回入手した単行本は32年前の初版本でそんなに傷みもないものだったが、とにかくかび臭い臭いが強烈だった。中古のLPでかび臭いものは比較的多いのだが、書籍でこんなにひどいものは初めてである。半日日陰で虫干ししたが、ページを捲るともの凄い臭いが舞い上がる。虫干しも1ページずつ繰りながらやらないと、こういったものには効果がなさそう。
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