つげ義春『貧困旅行記』(91)
気分が落ち込んでしまった時にこの人の作品を見ると安らぐ。つげ義春の生活はお世辞にもいいとは云えず、おそらく最悪とも云えるかもしれないのだが、それでも誰の心の中にも潜んでいるような人間の弱さのようなものが的確に描かれ、それを再認識することでほっとするのだ。この人の作品はマンガであれ、エッセイであれ、カタルシスの意味あいが非常に強いと思われる。
貧困旅行記 つげ 義春 (著) |
この書籍はおそらく10年ぶりくらいに読み返した。つげの精神状態は良くなく、鄙びた場所で静かに過そうと云う意識が強い。そういう状態で山奥の一軒宿を訪れたりしていたようなのだが、そういった旅に纏るエッセイが纏められている。
鄙びた宿がいいというとなのらしいが、それでも単に鄙びて汚いだけのところはつまらないと云う。かなりの審美眼をもって鄙びた加減を見ているのだろう。とてつもなく我が儘な人だとは思いつつも、何とはなく判るところもあり、苦笑を誘われる。つげは家庭の事情で小学校を卒業後、中学校には進学せずに就職し、まともな教育を受けていないのだが、彼の文章には何ら淀みがない。文章構成力は才能によるものであるとつくづく知らされる。
マンガ家として知られるつげだがエッセイも非常に優れている。
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