« ピーター・ウィアー『刑事ジョン・ブック 目撃者 Harrison Ford in WITNESS』(85) | トップページ | 台風の夜 »

2006.09.16

原一男『ゆきゆきて、神軍』(87)

 原一男の、というか、奥崎謙三の、というべきかよく判らないけども、ドキュメンタリ映画『ゆきゆきて、神軍』(87)を入手。ヤフオクで2800円(+送料200円)。17、8年ぶりに見る。

ゆきゆきて、神軍
ゆきゆきて、神軍

 ニューギニア戦線で、2名の兵が上官命令により銃殺された。それは敗戦後、23日目のことだった。この命令は何に基づいて行われたのか。同じ連隊に属し、敗戦前に捕虜となった奥崎謙三が関係者を訪れ、同僚の死の事実を明らかにしようと問いただす。銃殺に関係した元日本兵は段々と固い口を開き、事実が明らかになってくる。

奥崎謙三/クリックで拡大表示 あらすじを簡単に記せばこのようになるのだが、実際にはそう簡単なことではない。この追跡者の奥崎という人物かとにかく只者ではないのだ。69年に天皇に対してパチンコを撃ったという人物である。その前には傷害致死罪も犯しており、移動の為の車は宣伝カー仕様で「田中角栄を殺す」という文字を大きくかかえている。そういった異常な人物が、元兵士の老人たちのもとを訪れては殴りかかる。暴力行為を起こしては「警察を呼べ」と自分で110番し、訪れた警官には「用はない。向こうに行け」と言い放つ。支離滅裂な人物である。

 戦場での出来事は過酷で、皆、口を開こうとはしない。何の話かといえば、黒ブタ・白ブタ、そして、仲間ということである。これでおそらく何のことかは見当がつくのではないかと思う。それをちゃんとした言葉で言わせようとするのは非常に過酷なことである。未来に伝えなければならない事実であるにしても、当事者としては好んで語れる事ではない。墓場にそのまま持っていくのが当然だと思われる。しかし、それが奥崎という暴力によって、ひねり出される。

 後味が悪いといえば非常に悪い。奥崎という主人公が異常であれば、明らかにされる事実も異常。素直に受け入れられるようなことはひとつもない。さらに奥崎はこの命令を下した元上官を銃殺するべく家を訪れ、留守の元上官のかわりにその息子を打ち、殺人未遂等で12年の懲役刑を受ける。

 カメラが入って、さらに奥崎の過激さに拍車がかかってしまっていたようだったが、彼をそこまで激しく突き動かすものは何だったろうかと思う。この作品を見た限りでは亡き戦友の弔いともとれるが、それだけでもなさそうだ。戦場でも奥崎は上官を殴っていたというし。とにかく生々しい情動で動く人間が痛々しい。

 それにしても原一男というドキュメンタリ作家は、この奥崎といい、嘘つきみっちゃんこと井上光晴といい、取り上げる人間が劇的で、着眼点がよいのか、運がよいのか通常のドキュメンタリとひと味違ったものばかりを撮っているのには感心させられる。まさしくドキュメンタリのエンターティナーである。

|

« ピーター・ウィアー『刑事ジョン・ブック 目撃者 Harrison Ford in WITNESS』(85) | トップページ | 台風の夜 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

文化・芸術」カテゴリの記事

ドキュメント」カテゴリの記事

DVD」カテゴリの記事

オークション」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 原一男『ゆきゆきて、神軍』(87):

« ピーター・ウィアー『刑事ジョン・ブック 目撃者 Harrison Ford in WITNESS』(85) | トップページ | 台風の夜 »