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2006.07.23

おおえ ひで・作 篠原勝之・え『八月がくるたびに』(71年初版)

 先日、現行版のおおえひで『八月がくるたびに』(01)を手にして、これは『八月がくるたびに』でないと思い、1971年初版ものを取り寄せる。当時、定価600円だったものが500円(+送料150円)。

八月がくるたびに
八月がくるたびに

おおえ ひで 作
篠原 勝之 絵
単行本: 123ページ
出版社: 理論社 (1971)




(クリックで拡大表示)


 イラストがすべて入れ換えられている。初版で用いられたイラストは愛蔵版の現行版では一切用いられていない。

 その外にも現行版とは大きな違いがある。

 現行版の冒頭には、はじめにという1ページがある。

  ---------------------------------
   はじめに

  だれが どうして?
  だれが どうして?
  こどもが おとなになり
  また そのこどもが おとなになり
  ・・・・・けれど こどもたちは
  おとなたちに たずねるでしょう。
  だれが どうして?
  ---------------------------------

 こんな文章があり、その下にはものが激しく燃えている上をB29とおぼしき飛行機が飛んでいるのを描いたペン画。これが現行版の始まりになる。

 しかし、初版では右のような(クリックで拡大表示)口絵でそれが表現されている。クマさんの挿し絵が異常なほどに圧巻で、心の奥に刺さってくる。そして、最後のページの「8月が くるたびに・・・」というひと文がさらにそれを忘れられないものにする。あたしがこのシーズンになると悩まされる理由だ。

 現行版を申し訳程度の訴えかけ方に変えてしまったのはどうしてだろう。そして、最後の「8月が くるたびに・・・」のひと文を削除してしまった理由を知りたい。

 初版で発行者の小宮山量平は「解説にかえて」という文章を巻末に載せている。

「事実として、この作品を幼い人たちの読む本とする場合、「原ばく問題」として生々しく心をうずかせる状況があるのです。(中略)たんに、被爆のむごたらしさをリアルに複写する「リアリズム」でもなく、ましてや、作品のつらさを甘くカヴァーするのでもなく、むしろ率直に、「原ばく問題」そのもののこわさを、きびしく表現するのが正当なことではないだろうか?──と。(中略)ここに一冊の本があって、もしもこどもたちが、この本とめぐりあったならば、そこには「原ばく」のつらさやこわさが、きっちりと描かれている──そういうきびしい本を、こどもたちこそは、まっとうに受けとめてくれると信じるのです。(後略)」

 口絵の調子で本文でも、山端の被爆者写真がコラージュで用いられたり、印刷が鮮明でない分救われているが、重々しい現実直視のものになっている。

 手元にあるものは71年7月第17刷となっている。71年が初版でいつ第一刷を出しているのか知らないが、年内に17も印刷を重ねているというのはかなりの反響を呼んだのだと考えられる。

  この本に衝撃をうけた人は少なからずいるようで、復刊ドットコムでも復刊リクエスト投票が行われ、また、コメントも数多く寄せられている。戦争が自国でもあったと云う記憶が淡れつつある今こそ、このような本の存在が貴重になると思われる。

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コメント

はじめまして。
本屋で見た「八月がくるたびに」が、
記憶にある内容と違っているような気がして
ここにたどり着きました。
考えさせられます。

投稿: サツキ | 2006.08.04 08:49

サツキさん、はじめまして。

この改悪はいったい何なんでしょうね。時代が変わったから、ドギツいものはよくないから、なんでしょうかね。殺戮の悲しさ、恐ろしさはなかなか伝わらないと思うんですけどね。

初版は比較的に簡単に見つかりますので、ぜひ久しぶりに手にしてください。

投稿: O-Maru | 2006.08.04 21:54

はじめまして。
こんばんは。
「八月がくるたびに」で検索してこちらにたどり着きました。そして、同じおもいになりました。
小学校の時の記憶から、この本を探していました。
変わってしまっているのですね‥。
先日、市の図書館に行った時にもみつけられませんでした。
でも、同じおもいの方に出会えてとてもうれしかったです。

投稿: hauru | 2008.07.31 00:00

hauruさん、初めまして。

この初版を久しぶりに手にした時には「これだよ、これ!」と
興奮したものです。
残酷なものはいけないとこの初版を嫌う人もいるようですが、
やはりこれくらいの衝撃がないとあの残虐さは伝わらないと
思います。
今だからこそオリジナルで復刻して欲しいものです。

投稿: O-Maru | 2008.07.31 22:57

 はじめまして。
 ここにコメントを書いていらっしゃる皆様と同様、オリジナルの「八月がくるたびに」について調べている最中に、こちらのブログに辿りつきました。
 初版を夏休みの課題図書として読んだ時の衝撃が忘れられません。真実を知らせるためには初版の方が良いように思えます。オリジナルでの再版を願います。
 こちらの記事をリンクさせていただいてもよろしいでしょうか。

投稿: まざあぐうす | 2009.08.09 17:42

まざあぐうすさん、こんにちは。

原爆そのものこそ使われていないものの、核を用いた小型兵器は今だに使われており、もう一度、核についての再認識が必要だと思っています。

リンクですが、こんな拙い記事でもいいのなら、よろしくお願いいたします。

投稿: O-Maru | 2009.08.09 20:31

O-Maru様

 早速のレスをいただきありがとうございました。
 復刊投票、一票を投じさせていただきました。半世紀以上経て、記憶が風化するのを留めるためにも、初版のイラストや文章の方が真実を伝える迫力があると思います。今の子ども達にショックを与えてはいけないという配慮からリニューアルされたのだと思いますが、初版のままに復刊されることを願います。

投稿: まざあぐうす | 2009.08.09 21:58

初めまして。
「八月がくるたびに」の検索でこちらにたどりつきました。
おかげさまで、久しぶりに手に取った時の違和感が、氷解しました。
記事をリンクさせて下さい
(不慣れなため、不快な思いをさせてしまったらお許し下さい)。
よろしくお願いします。

投稿: まめこ | 2010.03.28 11:07

まめこさん、初めまして。

リンクの件、このような拙い記事で結構でしたら、ご自由になさって下さい。

それにしてもこの絵本のインパクトは大勢の人にとって只ならぬものだったようですね。

一生モノとでも云ってしまえるくらいのものです。

知識人の一部は国防のため、核保有も必要と主張していたりするわけですが、やはり封印すべきものをあえて持つことを考えるというのは理解を越えています。

ということで、この絵本についてはオリジナルを再販して欲しいですね。

投稿: O-Maru | 2010.03.28 12:55

はじめまして。
この1冊がもう一度読みたくて読みたくて
ずっと探しています。
当時9歳だった自分の目に胸に刻まれた
この最初の数ページが、反原爆運動に参加させてくれた、
この子達の夏の朗読劇を仲間と上演する力に
なってくれたと思っています。

投稿: ぴーなつ堂 | 2010.06.05 07:09

ぴーなつ堂さん、初めまして。

非常に怖いという印象を与えられた絵本なのですが、
実際にはただ単に怖いだけではないものでした。

読んだ後に何十年にも及んで影響を与え続けるという
希な力を持った作品だと思います。

今の子供たちにも本当は読んで欲しいものなのですが。

書籍自体はyahooオークションで比較的簡単に入手できます。

投稿: O-Maru | 2010.06.05 23:34

はじめまして。

急にこの本のことを思い出し、子どもにこの本を読ませたくて検索しているうちにこちらにたどりつきました。

私が小学4年か5年の時、夏休みの読書感想文の課題図書として、母が選んできた本です。

当時、読書感想文を書くこくことだけを目的にして読まされた感があったせいか、申し訳ないくらい本の内容は覚えてなく、強烈なイラストばかりが記憶に残り、結局どんな感想文を書いたかも全く覚えていません。そんな自分のためにももう一度読んでみたいと思った次第です。

今では、テレビなどのメディアで事件や事故の際、また、暴動などの映像で人の死体や人が撃たれたりする場面を目にしますので、最近の子ども達はこれくらいではなんとも思わないのでしょうが、当時の私は、写真だと思われる、人骨らしきものとイラストが混在した挿絵をみて、あまりの衝撃に、小学生の課題図書なのにこんな強烈な挿絵のある本でいいのだろうか、、と子どもながらに疑問まで持った記憶があります。

小学生に戦争の悲惨さを知らせるはずの本だったはずなのに、小学生の私にそのことが本当に伝わったのかいささか自信がありませんでした。

私の場合は、結果的に大事な本の内容が記憶に残らず(もちろん今読み返せば思い出すのでしょうが)、挿絵だけの記憶しか残っていないのですが、それでも、あれから何十年も経っているのに、この本を読み返したい、子どもに読ませたい、と思わせるものがあったと思うと、確実に私の心に刻まれていたのでしょう。その事実からしても初版でないとこの本の価値は半減してしまうのかもしれません。

長々とすみません。皆様の思いと違っていて、失礼な表現をしていたら本当にすみません。でも、長いこと、こんな自分に対する情けない、暗い気持ちでいたので、思いを書いてしまいました。申し訳ありません。

投稿: あき | 2010.07.14 08:55

あきさん、こんにちは。

実はあたしも挿し絵のインパクトばかりで、内容のことはほとんど覚えていません。というか、挿し絵が怖かったので、まともに本文が読めなかったように思います。

この絵本に関しては、挿し絵の恐ろしさ=原爆の恐ろしさ、といったイメージを植えつけただけでも十分な価値があったのではないかと思います。これほど生理的に直感的に植えつけられることは滅多になく、実に効果的な平和教育ではなかったかと思っています。

クマさんによって描かれた原爆による"死"にまつわる挿し絵は、彼のフィルターを通して更に強烈になっていて、今の子供たちにも十分に衝撃を与えるものだと思います。

投稿: O-Maru | 2010.07.14 23:42

こんにちは。
小学4年の夏休みの宿題で、【八月がくるたびに】の読書感想文を書きました。
ひさしぶりに表紙の絵をみて、これだ!と思いました。
長崎の原爆記念日が近づき、なんとなく検索してみました。
このお話しがこんなにも、みなさんに読まれているとは、思わずびっくりしています。
8月が近づくと、戦争、原爆のこと思わずにはいられません。

投稿: うめのみ | 2012.08.07 17:33

初めまして。
八月がくるたびに、を検索していましたら、こちらのページにたどり着きました。
この本の1971年版の際、読書感想文の課題図書でした。
当時小学3年生だった私ですが、非常に心が動きました。
県の佳作を頂きましたが、そんな事もあってか八月となると毎年思い出されます。
いつの間にか初版のままではなくなっていたことを知り、大変残念に思います。
小さい子供でもきちんと理解すべき事が書かれてあったと思います。
Facebookでリンクさせて頂けたらと思います。
何卒よろしくお願い申し上げます。

投稿: 名無し | 2015.08.05 23:12

読書感想文で賞を取られたのですか。素晴らしいですね。
一見厳しく見えるけども、事実でありますし、旧版を変更する必要はないんですけどね。
しかし、70年経つと過去の話になってしまうんですね。昨日のTVはNHKが素晴らしいドキュメンタリーを作ってくれていましたが、それくらいですかね。
多分あたしは死ぬまで広島、長崎のあの日のことを忘れないと思っています。
リンクについては自由にしてくださって結構です。よろしくお願いいたします。

投稿: O-Maru | 2015.08.07 01:28

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» 「八月がくるたびに」 [それはね、明日のむこうにある。]
九州に行ってきました。 とても楽しい旅行でしたが、 どうしても行っておきたい場所がありました。 長崎の平和公園と原爆資料館です。 私の小学校4年生の時の担任の先生が長崎出身で、 その先生に紹介されたのが 「八月がくるたびに」(おおえひで作 篠原勝之絵)... [続きを読む]

受信: 2009.08.07 22:38

» ほんとうの『八月がくるたびに』 [カリノ トウコ]
八月が来るたびに思い出す本。 小学生の夏休みの読書感想文の課題図書だった、1971年版の『八月がくるたびに』(おおえ ひで・作 / 篠原勝之・え)。 本好きだったにもかかわらず読書感想文は大の苦手で、感想文用に用意された課題図書も苦手だった私。 6年間の課題図書で覚えているのは、この一冊だけ。 小学生の私にこの本の衝撃は大きく、この本がテーマにしている原爆に対してだけでなく、本というものに対する意識にも影響を与えられたように思う。 表紙や裏表紙の見返しや挿絵や最初のことばがすご... [続きを読む]

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