市川準『トニー滝谷』(04) その2
昨日届いたDVD『トニー滝谷』を今日も観る。
市川準というとやはり映像美の作家である。特に印象深かったのが、『ノーライフキング』で子供たちが本当のリアルを発見するシーン。映像だけで、世界が光り輝いているのを見事に見せてくれた。フォトジェニックというだけの問題ではなかった。世界に対する驚きの息遣いがそこにあったように思う。
『トニー滝谷』は光の中の世界。光の中といっても、人間が光を背から浴びると、逆光になって鮮明には見えなくなる。そんな、光だ。7割が室内のシーンで、その背後にはいつも大きく窓が切り取られている。
DVDには映像特典として村松正浩によるメイキング「晴れた家」が収録されている。これを見ると、この映画の撮影がいかに特殊だったのかが判る。室内のシーンは、少なくとも10箇所はあるように思われるのだが、そのほとんどが横浜市内の空き地に設けられた、黒布のテントを天井にし、左右の壁だけをつくっただけという簡易なセットで撮られている。だから、異なるシーンを撮るためには壁を取り替え、小道具を配置し直すという1時間程度の作業時間で済んだりもする。セットの正面の空間に常に大きな窓が設けられていたのは、壁がない状態で単に風景が生の状態で見えているだけというのが実際だったようだ。
極めて特異な撮影の仕方をし、実験的とも捉えられかねないのだが、あたし的にはごく普通に観ることができた。だから、後からメイキングでその手法を知らされてびっくりした。
メイキングは観ない方がよかったのかもしれない。映画の舞台裏を知るとこは少しも必要ないからだ。場合によると悪い影響をもたらすこともある。しかし、こういった方法を採らなければならなかったのは、何割かは低予算で映画製作をしないといけないということもあったはずだ。制限された中で最大の効果を発揮する方法を見い出す。それも芸術の芸術たる所以のひとつではないかとも思う。表出の技術の問題だ。今回、市川は間違いなくそれに成功している。
そして今回の坂本の音楽は、あまり表に出てきていないことに評価する。
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