« 土筆の天ぷら | トップページ | 久々の競合い »

2006.03.15

ローランド・ジョフィ『シャドー・メーカーズ FATMAN AND LITTLEBOY』(89)/きのこ雲とくるみ割り人形

 邦題は『シャドー・メーカーズ』。英語でのタイトルも『SHADOW MAKERS』と添えられているが、これは原題ではない。原題は『FATMAN AND LITTLEBOY』。長崎と広島に落された原子爆弾のニックネームだ。映画のオープニングで、天井から吊るされたこのふたつの爆弾のシルエットが描かれる。投下順序ではLITTLEBOY AND FATMANとなるべきで、ちょっと違和感を感じる。ふたつ並べられた爆弾の映像は右がFATMAN、そして左がLITTLEBOYではあったけども。日本でつけられたタイトルはヒロシマの住友銀行広島支店の『石段に焼き付けられた人の影』に由来していると思われる。

シャドー・メーカーズ
シャドー・メーカーズ

監督: ローランド・ジョフィ
出演: ポール・ニューマン, ドワイト・シュルツ

 物語は、9.11テロで航空機により一部破壊されたペンタゴン(アメリカ国防省総司令部)の建設を行ったレズリー・グローヴス大佐が上官から原爆開発を命じられるところから始まる。1942年9月のことである。グローヴスはオッペンハイマーを始めとする科学者をニューメキシコ州のロス・アラモスに集め、原爆製造計画であるマンハッタン計画を遂行する。そして1945年7月16日の人類初の核爆実験であるトリニティー実験の成功までが、この映画によって描かれる。

 計画は、技術的な問題、また、秘密漏洩に対する問題、シカゴ派と呼ばれる科学者の核兵器開発の反対等の問題を抱えながらも、計画を指揮するグローヴスの強い押しで成功に辿り着く。決して行け行けどんどんではなく、グローヴスのようなバケモノのがいたことでようやく日の目を見たということがわかる。グローヴスを演じるのはポール・ニューマン。紳士的で優しい役柄を演じることの多かった彼がこんな嫌味な役を演じているが、あまり違和感がない。なかなかである。

 映画自体は実に客観的に描かれる。核兵器の開発に対して賛成でもなく、反対でもない、その様子のありのままを最後まで描く。そして、エンディングに「21日後の1945年8月6日に、"リトルボーイ"と呼ばれる爆弾が広島に落された。その3日後には"ファットマン"と呼ばれる爆弾が長崎に落された。爆弾投下の結果、少なくとも20万人が死んだ。1945年9月2日、日本は東京湾で無条件降伏した」とテロップが流れる。エンドクレジットに入る前に、宇宙から見た地球の映像。作りは客観さを保ちストイックなのだが、反戦を意識しているのには間違いあるまい。

 監督はこの前に『キリング・フィールド The Killing Fields』(84)を撮っている。クメール・ルージュによるカンボジア支配の様子を描いたものだが、この作品もドキュメンタリ的な作りを心がけ、実にストイックだった。ただ、この作品ではエンディングにレノンの「イマジン」を使ってしまうなど、甘さの残るところがあったが、基本的に観客に判断を委ねると云う態度は評価に値する。

キリング・フィールド
キリング・フィールド

監督: ローランド・ジョフィ
出演: サム・ウォーターストン, ハイン・S・ニョール

 ちなみに『キリング・フィールド』のサントラを担当したのはMike Oldfield(マイク・オールドフィールド)。作風が彼らしくないと思うけども、「よい知らせ」や「エチュード」(「アルハンブラ宮殿の思い出」のアレンジ版)はなかなか聴き応えあります。

Killing Fields
Killing Fields

Mike Oldfield

 以前に紹介したことのあるスティーヴン・ウォーカー『カウントダウン・ヒロシマ』(05)では、広島に原爆が落されるまでの3週間の出来事が描かれるが、第一幕がこの映画の描いているものと符合している。

カウントダウン・ヒロシマ
カウントダウン・ヒロシマ

スティーヴン・ウォーカー(著)
横山 啓明(翻訳)

単行本: 438 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 早川書房 ; ISBN: 4152086548
(2005/07/15)

 -きのこ雲とくるみ割り人形- 人類初のトリニティ実験は早朝5時29分に行われたが、そのカウントダウンを行う際、地元のラジオ局の放送と混信してしまう。実験場でのカウントダウンにラジオ番組が交じり、そしてまた、なにも知らずにラジオ番組を聴いているとカウントダウンの声が、といった具合である。映画では核爆発時にラジオ放送の「くるみ割り人形」が流れる。実験を見守る関係者の異様な緊張と「くるみ割り人形」の軽快さ。事実かどうか(その時に流れていたのが果たして「くるみ割り人形」かどうか)は知らないが、見事な演出だった。

|

« 土筆の天ぷら | トップページ | 久々の競合い »

映画・テレビ」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

文化・芸術」カテゴリの記事

ドキュメント」カテゴリの記事

通販」カテゴリの記事

DVD」カテゴリの記事

ヒロシマ・ナガサキ」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ローランド・ジョフィ『シャドー・メーカーズ FATMAN AND LITTLEBOY』(89)/きのこ雲とくるみ割り人形:

« 土筆の天ぷら | トップページ | 久々の競合い »