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2006.01.13

オリヴァー・ヒルシュビーゲル
『ヒトラー ~最期の12日間~ DER UNTERGANG』(04)

 予約していたDVDが着く。ドイツ第三帝国の崩壊の様子を描いたオリヴァー・ヒルシュビーゲル『ヒトラー ~最期の12日間~ DER UNTERGANG』(04)。


ヒトラー ~最期の12日間~
スペシャル・エディション

監督: オリヴァー・ヒルシュビーゲル
出演: ブルーノ・ガンツ, アレクサンドラ・マリア・ララ

 物語はユンゲが総統秘書の採用にあたって、ヒトラーの面接を受け、秘書採用が決定されるところから始まる。1942年のことである。そして次のシーンではヒトラー最後の誕生日である1945年4月20日となっている。
 タイトルにもある「最期の12日間」というのがいつの期間なのかはっきりしないのだ。メインの物語は45年の4月20日から始まり、29日にヒトラーとエヴァが結婚し、そしてその翌日に拳銃自殺する。ベルリンの陥落は5月2日であり、4月20日から12日間というと陥落の前日までの話となる。これでいいのだろうか。よく判らない。

 原作はもともとはヨアヒム・フェストの『ヒトラー 最期の12日間』だけであったが、製作途中でトラウデル・ユンゲの『私はヒトラーの秘書だった』(こちらでレヴュー済)が発表され、これも取り込んだのではないかと思われる。『ヒトラーの秘書』は42年に秘書になった当初から、45年の敗戦までが描かれており、この12日間に当たるのは、「第5章 ベルリンの防空壕で」の最後数ページと「第6章 たった今,総統が死んだ」となっている。映画のラストには、ユンゲ本人による証言を見ることもできる。


ヒトラー 最期の12日間

ヨアヒム・フェスト(著), 鈴木 直(翻訳)

単行本: 249 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 岩波書店 ; ISBN: 4000019341
(2005/06/21)



私はヒトラーの秘書だった

トラウデル・ユンゲ(著)
足立 ラーべ 加代(翻訳),高島 市子(翻訳)
単行本: 349 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 草思社 ; ISBN: 4794212763
(2004/01/25)


 
 原作者と脚本家の製作意図は次のようなものであるらしい。(特典映像のインタビューから)

 ドイツ第三帝国が終焉を迎える最後の数日間にヒトラー体制のあらゆる側面が集約され、そして凝縮され、はっきりと現れた。/ヨアヒム・フェスト(原作『ヒトラー 最期の12日間』)

 原作の「ヒトラー 最期の12日間」が素晴らしいのは、体制の最後に絞っている点だ。ヒトラーではなく、"体制の終焉"が焦点なのだ。総統が死んでも、崩壊に向けて動き始めた機械装置は、まだ止まらなかった。(中略)ヒトラー体制の12年間があの数日に凝縮されている。すなわち、最後の日々はすべてを物語るものなのだ。あの数日を描けば、体制の全体像が見えてくる。/ベルント・アイヒンガー(製作・脚本)

 正直言って、映画を見終えて混乱している。末期の帝国の混乱した様を見て、何も思い浮かばないのだ。製作者側は体制の全体像がみえるというのだが、あたしにはそうは思えないのだ。これがナチス特有のものであるかどうかというと、感覚的にそうであるとは言い切れないところがある。

 日本の終戦前夜の様子は岡本喜八『日本のいちばん長い日』(67)で史実に基づいて描かれているが、確かにナチスのものとは様相は異なる。日本は直接、敵に踏み込まれている訳でもなく、まだ冷静でいられることができた。ヒトラーが日本のように早々に判断することができたはずとも言えなくはないが、最後まで降伏を認めないなら、日本もおそらくドイツと同じような状態になっていたはずだ。

 言うならごく当たり前のように思われる光景が2時間半展開されて、反応に困ってしまったと云うあたしがここにいる。

 それにしても『ベルリン・天使の詩』(87)のブルーノ・ガンツも随分老けました。あれから20年近くなるから仕方ないにしても、ヒトラーより10歳年上の彼が演じて実際のフィルムと比べて違和感がないというのは、ヒトラー自身が老い切っていたということにもなる。最後の誕生日、ヒトラーはヒトラー・ユーゲントの引見(すでに精神的にも体力的にも衰えたヒトラーの手が小刻みに動いていたので有名な)した際の映像が彼の最後の映像となったのだが、その様子が映画のワンシーンとしてそのまま再現される。記録映画『ヒトラー』(77)で見比べるとそっくりで、見事と云うしかない。ただ、実際のヒトラーはいくらか笑顔で接していたが。

 この作品は、たぶん、全くと云っていいほど消化できていないと思うので、もう何回か見てみるつもりでいる。

 参考までにサントラ盤はこちらになります。日本版は出ていないようなので、原題で検索しないと見つかりません。

Der Untergang
Der Untergang

 原作については映画を見てから読むべし。原作では防空壕がどういうものか想像がつかないし、ストーリーより細かな描写がメインなので、映画を見ていても特に困ることはありません。

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コメント

 結局の所、独裁者の末路は寂しいよ、一党独裁じゃ
駄目だよ、そしてドイツ人は結局、総統を殺して新たな
国を作ろうとしなかったんだよ。そこまで独逸国民にナ
チズムが浸透していたと言うことでしょう。(おもっきり
自己解釈ですが(^_^;))

イタリア人は自ら統領を殺したのにね(^_^;)

日本も国民自らの指導者達は銃殺等にすれば良かっ
たのにね(^_^;)
救えなかった。体制内反体制派の存在もなく、
いたずらに国民達を死に追いやったと

投稿: きつつき | 2006.01.14 03:51

 ヒトラー暗殺計画は少なくとも2度は実施されたんだけど、悪運が強かったんだよね。
 ヒトラーも天皇も光明が強かったんだな。そういう風に個人を祭り上げてしまうとどうもよくないらしい。
 腐った民主主義と優れた人物による独裁はどちらがいいか、というのは銀河英雄伝説の命題だったけども、何れにせよ、為政者が無条件に近いような状態で受け入れられる状況は危険視すべきだと思うよね。

投稿: O-Maru | 2006.01.14 05:59

 戦後の総括としてヒトラーを自害させずに独逸国民
自ら手を殺めなかったと言うことで(^_^;)

 最後の方で、主人公(秘書達)の部隊に対して、敗
残兵達が相も変わらずナチス式敬礼を行うところが
この期に及んでも変革できなかったんだなぁ(流石
頑固なドイツ人)

 日本の場合は一応立憲君主的議会制民主主義で
また民衆の声を有って開戦決定したんだし、ヒトラー
と天皇陛下を同列に置くのはどうかなと・・・・・。(^_^;)

 まぁ現人神と成り上がりはべつもんだもん(^_^;)

 

投稿: きつつき | 2006.01.17 01:47

 現人神という存在もヤバイよね。神だから逆らうわけにはいかんし。天皇が意見を聴くだけの御前会議も為政者にとっては利用するだけのものだったしね。

 どちらも国民がNoといえるような雰囲気がなかったんじゃないかと。9.11以降のアメリカも同じようなもんさ。というか、赤狩りの頃からか。

投稿: O-Maru | 2006.01.17 23:44

話は変わるけど、この映画のサントラってあるのかなぁ?

日本じゃ未発売だし、海外サイト分からんし(^_^;)

気が向けば、お知恵貸してくださいな(^_^;)
(まぁ最後の出演者紹介のBGMが気になって仕方がな
いんでね(^_^;))

自力で探すの疲れたわ(^_^;)(もち正規でね(^_^;))

投稿: きつつき | 2006.01.23 00:16

Amazonで発見。URLはこちらドイツAmazonでは試聴できます。原題のDER UNTERGANで検索すると一発だったです。

投稿: O-Maru | 2006.01.23 00:30

助かりました(^_^;)
早速注文しました(#^.^#)

原題とは気づかなかったなぁ、ドイツ語は無理かと
思ってたから(^_^;)

投稿: きつつき | 2006.01.24 00:50

本家Amazon.comで見つからないんで、探すとタイトルが「Der Intergang - Downfall」となってました。英語タイトル Downfall で検索した結果なんですが、独語原題がなんか微妙に変わってます。これって、何なんでしょうね。

投稿: O-Maru | 2006.01.24 22:28

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以前にも掲示板で話題になりましたが。 過日、アントニー・ビーヴァーというイギリスの軍事史家が、ベルリン最終戦についての超力作ドキュメンタリー作品『ベルリン陥落1945』を発表して大いに評判となりました。単なる事件の記録にとどまらず、この戦場におけるドイ..... [続きを読む]

受信: 2006.01.16 02:25

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