スティーヴン・ウォーカー『カウントダウン・ヒロシマ』(05)
元BBCのドキュメンタリ監督スティーヴン・ウォーカーによる、1945年7月15日から8月7日までの3週間強の核に関係した人間の記録。原題は『SHOCKWAVE - COUNTDOWN TO HIROSHIMA』
カウントダウン・ヒロシマ スティーヴン・ウォーカー(著) 単行本: 438 p ; サイズ(cm): 19 x 13 |
舞台となるのは、マンハッタン計画の中心であるロス・アラモス研究所、日本・アメリカの政府・軍部中枢、テニアン基地の第509混成航空群、そして、広島。これらが時系列を追って描かれる。いわゆるカットバックの手法を用いて描かれるため、サスペンス感が生じる。そのため単調な出来事がドラマとなる。こういった描き方はどうしてもエンターテイメント指向が強くなるが、文書による資料はもとよりアメリカ側21名、日本側同21名のインタビューに基づいたものであり、ディテールが細かくリアルであり、決して下品にはなっていない。
ロスアラモスの様子はローランド・ジョフィ『シャドー・メーカーズ Fat Man and Little Boy』(89)でも詳しく描かれている。ポール・ニューマンの演じるグローヴス将軍の押しの強さは、まさしく『カウント-』で描かれている通りだった。途中、臨界事故が起き、若手の科学者死亡するのだが、これは事実だったのだろうか。『カウント-』では、トリニティ実験の1年後、実験中に臨界事故で亡くなった科学者がいたことが記されていた。--ここで検索をしてみるとロスアラモス事故として2件、45年と46年に事故があったのは間違いないようだ。あの映画は可能な限り事実に即して作ったものかも知れない。それにしても『Fat Man and Little Boy』というストレートな原題には驚かされる。
シャドー・メーカーズ 監督: ローランド・ジョフィ |
人類初めての核実験トリニティの後に実戦装備されることになる原子爆弾なのだが、実験後からエラノ・ゲイが爆弾投下するまでのことはほとんど知らず、興味深いことばかりだった。カボチャ爆弾による訓練や京都を目標から外したのはそもそも原爆投下に反対だった陸軍長官であったこと等。
原爆を使用したのは反共でソビエトを睨んでのことだった。小国は、結局、振り回されるしかないのかと思う。日本の場合、戦争という大儀があるからまだいいものの、大平洋の島国は実験のためだけに、国から追い出された。
そして、もう一つ。トリニティ実験の後、科学者がグランド・ゼロ(爆心地)に向かう際、厳重な放射能対策をする。放射能の恐ろしさはこの段階ですでに判っており、さらに戦後、アメリカ政府は熱線・爆風による犠牲者と同数の放射能被害者がいると発表したらしいが、51年のネヴァダでの核実験ではアトミック・ソルジャーが参加し、爆発直後に地上部隊5000人が爆心地へ進軍し被曝したという。まったく何をしているのか判らない。
最後に「執筆ノート」という章が設けられ、何を資料にして著述したのか明らかにされる。本人からのインタビューや資料を寄せ集めて、この本が書かれたのがよく判る。ドキュメンタリは事実そのものではなく、著者のチョイスであるということも否応なく見せつけられる。ドキュメンタリも作品に他ならない。それは重々知ってて、ドキュメンタリを楽しんでいるつもりなのだが、手の内を見せられているという感じもあって興醒めしないでもない。あたしは詳しくは目を通さないつもりでいる。
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