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2005.10.12

高畑勲『柳川堀割物語』(87)

 おそらく邦画のドキュメンタリで最高傑作の一本と思われるのが、高畑勲の『柳川堀割物語』だ。タイトルのとおり、福岡県柳川市に張り巡らされた堀割を題材にしたドキュメンタリ映画である。


柳川堀割物語

製作 宮崎駿
監督 高畑勲
脚本 高畑勲
撮影 高橋慎二
音楽 間宮芳生

 個人的に宮崎駿&高畑勲というコンビは逃げてしまいたくなる取り合わせなのだが、この作品に関しては絶讃してやまない。

 高畑はもともと水路が張り巡らされている特殊な町・柳川を舞台にした物語-アニメーションを作るつもりだったらしいが、柳川を詳しく知るうちに堀割そのものに興味を持ってしまい、堀割についてのドキュメンタリの製作に至ってしまう。

 ナレーションの一部を担当するのは現在放送されているNHKアーカイブスのキャスターをしているNHKの名アナウンサー加賀美幸子。おかげでNHKのドキュメンタリを見ているかのような錯覚に陥るが、彼女の優れた語りも作品の重要な要素である。水辺を静かに捉える高橋慎二も申し分なく美しい。そして、間宮芳生によるテーマ曲。これらが堀割の存在の大きさを見事に描く。

 映画はまず堀割と密着した住民の生活をとらえる。水道のない頃は早朝の堀割の水を汲み上げ、飲料水・生活用水にしていた。それは子供たちの仕事でもあった。現在も水をたたえた堀割は日常の光景の一部でもある。さらに堀割の仕組みが解き明かされる。堀割は用水路としてだけでなく、治水の役割も果たしている。そして、水路の歴史。しかし、昭和40年代の高度成長期に堀割はドブ川、さらにゴミ捨て場となり、機能しなくなる。堀割を暗渠にし、下水道を作るという計画を市が打ち立てるが、新しくその担当となった市職員・広松伝によって、水路の清浄の活動が展開され、市民も巻き込む。そうして堀割は本格的に昔の姿を取り戻すことになる。

 2時間50分弱という時間も然[さ]る事ながら、すべてが非常に丁寧に描かれている。堀割の仕組みは高畑の本業でもあるアニメーションが用いられ、その高度な機能をつぶさに知ることになる。社会運動的な志向性は全くなく、ただ堀割を見つめる淡々とした静かな視線に心が落ち着く。

 ちなみに少し前まで下水道に関する業務についており、久々にDVDとなったこの作品をレンタルで観て、複雑な心境になってしまった。環境を守るために地中に管を張り巡らせる。なんか矛盾しているような気もする。人間が人間として生きていくのは段々と難しくなってきているように思う。

 この作品は封切り当時に見たはずで、湯布院の映画祭で観たのか知らんと思っていたのだけども、湯布院映画祭の上映リストにはなかった。どこかのホールで上映されていたのを観たのかもしれない。湯布院でみた映画で、同じくドキュメンタリの『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(87)も素晴らしかった。シンポジウムでこの映画の監督である故小川伸介の話を聞いたのだけど、これも涙ものだった。見ている人には色んなものが見えるんだなと。ちなみにこの『-日時計』は3時間42分という長尺。『柳川堀割物語』がDVD化されるのも結構待ったが、残念ながらこちらはもっと待たされそうな状態だ。待った割にはヤクオフで2500円(+送料180円)での落札。

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