Mike Oldfield「HERGEST RIDGE」(74)/泣かせる音
あたしに言わせると「掟破りの一枚」がこれ。こんなものがこの世にあっていいはずがない。
HERGEST RIDGE Mike Oldfield |
音楽を聴いて泣かされることがある。例えば、イタリア映画の『鉄道員』(56)とか。頑固親父と息子の話もいいんだけど、とにかく音楽に哀愁があって、これを聴くだけで泣けてくる。『ドナドナ』では泣くのはちょっと難しいけど『鉄道員』では絶対にやられてしまう。
メロディーラインでやられてしまうのが『鉄道員』だったら、音でやられてしまうのがマイク・オールドフィールドの『HERGEST RIDGE(ハージェスト・リッジ)』である。ちなみにハージェスト・リッジというのはイギリスにある丘陵地帯の名前。
オールドフィールドの知名度ってどんなものなのだろう。若い人は知らない人の方が多いかも知れない。しかし、ロック界においては絶対に忘れてはならない人物であるし、紛れもない天才である。
このアルバムはPart1が25分、Part2が23分という長尺(60分の作品もあるけど)のものであり、しかも楽器のすべてを一人で演奏しているという代物なのである。多重録音で作成され、その録音回数は数千回といわれている。どの演奏も調和が取れ、間違いなく完璧であり、そして特にPart1の15分あたりから展開するギターの演奏、そしてその音がとにかく素晴らしいのである。どのように素晴らしいのか言葉で表現できないのが悔しくてたまらない。
天才のなせる技を目の当たりにすると「どうして?」という言葉しか出てこなくなる。この「どうして?」というのは驚嘆に他ならない。どうしてそのような完璧な形で現れてきたのか? おそらくところどころを修復しながら形にしたのではなく、もともとそこにそれはその形で存在していたのだと確信させてしまう何かがある。整形美人は残念ながら、どことない違和感を残してしまうものである。
ジャンル的にはロックといわれているけど、ジャンルで括るのがまったく意味をなさない音楽。そこにあるのはオールドフィールドの世界だけである。アマゾンで1000円弱。騙されたと思って買ってみ。夕方の薄暗がりの中で聴いてみ。絶対に泣くから。
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